決断、挑戦、覚悟、始動。
池田兄弟を読み解くキーワード
ここに、一組の双子がいる。幼いころから、彼らは行動も好みも常に一緒。ときには言い合い、反発することもあったが、気が付けばやはり同じ行動をとっていた。そんな彼らは来年、中学を卒業。夢へ向かって大きな一歩を〝一緒に〟踏み出す。
「ずいぶんと大人びている」と、思った。彼らと会った時のファースト・インプレッション。兄・透麻、弟・虎弘。15歳という多感な時期にもかかわらず、このような落ち着きを見せるのは、刻一刻と迫るそのときのために、今から準備をしているかのようだった。 次のステージでの選択は、全国区の強豪チームへ。それが彼らの決断だった。
今年の夏、2人で全国各地、いくつもの試験を受けた。「別々ではなく、2人ともが受かったチームに進もう」。どちらからともなくそんな気持ちになった、と彼らは話す。互いが互いを「ライバルであり、友人であり、理解者」として見ているのだという。片方が褒められれば片方は自分のことのように嬉しい。しかし、だからこそ燃える。2人でいてこそ、彼らはそれぞれが輝いていられるのだ。
彼らにとって、この決断はまさしく挑戦以外の何物でもなかった。「ゆくゆくは、プロの世界に行きたいと思っている。でもそのためにはまず、今を全力でやり続けたい。それができないようなら、プロの世界なんて憧れにしかならないから」。弟は切れ切れに、しかし思いを確かめるように言葉を紡ぐ。兄の透麻は「慣れない環境で不安はあるけれど、毎日何をすべきかを考えて過ごしていきたい。応援してくれる人のためにも、それが自分のできることのすべてだと思う」。彼らにとっては、プロというステージにいつか立つための「毎日」が挑戦なのだ。
おそらく、並大抵の覚悟ではなかったはずだ。「サッカーだけに打ち込める環境ではない。学生なので勉強もあるし、ゲームなんてもってのほか。遊んでいる暇はない。本当にサッカーが好きな気持ちがないと、やっていけない生活だと思う」と話すのは弟の虎弘。「きっと今より厳しい上下関係が待っている。その中でも、埋もれないように自分たちを上手にアピールしていかないといけないと思う」。兄の透麻は遠くを見つめて静かに話した。
これからに向けて、両親や監督に向けて、残していく後輩たちに向けて、そして互いに向けての思いを語ってもらった。
まず、彼らを取り巻く大人たちに。「両親も監督も、全力でサポートすると言ってくれた。その期待に応えるように結果を出していきたい」(兄・透麻)。
そしてチームメイト。「優秀なコーチ達がいるので、一言一言が価値のある指導だと思う。どんどん吸収していってほしい。僕たちも、後輩たちのお手本になれるよう、精一杯努力したいと思う」(弟・虎弘)。
最後に、互いに向けて。
「すごいレベルのサッカーが、自分たちを待っていると思うけど、これからも変わらず一緒に練習できるのはうれしい」(兄・透麻から弟・虎弘へ)。
「お互い意識を高く持って、チームのために戦う気持ちを大事にしてやっていけたらと思う」(弟・虎弘から兄・透麻へ)。
重圧も不安もあるだろう。けれど彼らは、もう始動している。春なんて、待っていられないのだ。冬の高い夜空の向こうには、きっと明るい未来がある。
(文 光田さやか)