誰の背中も、見えない。
「他の追随を許さない」とは、彼女たちのためにある言葉なのかもしれない。岡崎市立竜海中学校陸上部のエース、姉の土居心愛と、年子の妹・幸愛。小学生の頃から彼女たちは、ジュニア陸上界で常にトップをひた走ってきた。
実は、彼女たちに会うのは二度目。先回はリレーメンバーの取材で伺ったときだった。私を見つけて手を振ってくれた、姉の心愛。今回のインタビューを楽しみにしてくれていたようだ。妹の幸愛に「私のこと覚えてる?」と聞くと、「もちろんです」と笑顔を見せてくれ、安堵した。和やかな雰囲気の中、彼女たちの速さの秘密に迫るべく、まずは日ごろの練習内容について聞いてみた。
「最近だと、とにかく走り込みですね。近くに階段の長いお寺があるんですけど、そこをひたすらダッシュです」(姉・心愛)。
「私も同じです。あとは筋トレかな。お父さんが理学療法士なのですが、特別メニューみたいなのを考えてくれるので、それを毎日やっています」(妹・幸愛)。
確かに、彼女たちの脚はしなやかでたくましい。無駄がなく、それでいてバネがよく効く。つまり、彼女たちの速さの秘密は走り込みと筋トレにあるということなのだろうか?
「多分、そうだと思います」と姉の心愛。妹の幸愛もうなずき、「私たち、みんなが走らないような日こそ、走ってるんです。めっちゃ寒い日とか、夜とか」と続けた。陰ながらの努力があってこそ、結果となってついてくるのかもしれない。
そんな彼女たちにも、今年一年で克服したい課題があるようだ。これがまた、面白いほどに、姉妹で対照的。姉は「私はピッチが速くて、妹はストライドが広い。そこは妹から学びたいところ」と話す。妹も妹で、「私はその逆で、ピッチを速くしたい。得意・不得意が真逆の二人だからこそ、課題が見えてちょうどいいのかもしれません」と。すると姉は「いや、でも幸愛にだけは、絶対負けませんけどね」と余裕の笑み。妹の幸愛はというと、姉にちらりと目をやり「こんなこと言ってるけど、そのうち私が抜かすんで」。視線のぶつかる先で火花がちらついたのは気のせいか。
インタビューの最後に、うれしくてたまらない一言が聞けたので、追記しておく。それは今後の目標を尋ねたときのこと。「もちろん全国です」と二人。ここで、姉の心愛は続ける。「それから、姉妹で、東京オリンピックに出ることです」。
もう、わずか二年後。だがまだあと二年ある。彼女たちの成長が楽しみだ。今もこれからも、トラックを駆ける彼女たちの目にはおそらく、誰の背中も見えていないのだから。
文・光田さやか